出版人列伝
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#13

雑誌『CONTE MAGAZINE』
発行人・編集長
川口美保さん

雑誌『CONTE MAGAZINE』発行人・編集長 川口美保さん
雑誌『CONTE MAGAZINE』発行人・編集長 川口美保さん

~小さな円(縁)を繋げて~

ここ数年の沖縄出版界のトピックとして、個人的にもっともエポックメイキングだと思うのは、『CONTE MAGAZINE』(コントマガジン)の創刊だ。2019年11月発売の第1号は、沖縄というローカル発のインディペンデントマガジンでありながら、日本全国に通じるコンテンツとクオリティに仕立て、見事ヒットした。昨年11月にはヤンバルを特集した第2号を2年ぶりに発売。第1号を超えるボリュームと身近なテーマで、やはり好調な売れ行きを見せる。

発行人・編集長は、2015年から首里でパートナーと共にカフェ<CONTE(コント)>を営む川口美保さん。2014年に沖縄に移り住むまでは、東京で雑誌『SWITCH』(スイッチ・パブリッシング)の編集者・ライターとして20年近く活躍し、雑誌の特集記事の他、書籍や写真集も手掛けてきた生粋の出版人だ。

「カフェの役割のひとつとして、文化や情報の発信があると思うので、最初は店で配布する冊子や新聞を作りたいなと考えていたんです。だけど想いを重ねていくうちに、やっぱり雑誌をもう一度やりたい!と思うようになりました。雑誌ってその時々のリアルタイムのものを綴じ込められるドキュメンタリー性がある一方で、続けていくことで見えてくる連続性もある。そこが単行本とは違う魅力ですね」

とはいえ、いくら編集ノウハウや書く力があっても、この出版不況といわれるご時世にビジネスとして成立させるのは至難の業だ。そこに不安はなかったのだろうか?

「最初から大きくやるつもりはなくて、小さな円(縁)を作りながらちゃんと回っていく仕組みを考えていました。広告を取ったり、発売元をどこかの出版社に委託したり、取り次ぎを通したりすることは最初から考えていなかったんです。もうすでに全国的にもインディペンデントマガジンはかなり出ていたし、独立系書店やカフェなどの書店以外で売ってくれる場所も増えていた。ネット販売も加えれば、直販での取引だけで十分可能だろうと思っていました」

その言葉を裏付けるように、『CONTE MAGAZINE』を扱うショップは県内で約30店、県外が約40店。そのうち従来型書店は、ジュンク堂書店、蔦屋書店、青山ブックセンター、リブロ、HMV&BOOKSなどごくわずか。ほとんどを独立系書店、古書店、カフェなどが占める。いずれももちろん小ロットの仕入ではあるが、それでも第1号、第2号とも初版各3,000部を刷り、すでに採算分岐点を無事突破している。『CONTE MAGAZINE』がエポックメイキングだと記したのは、まさにこの新時代の出版流通スタイルと販路を沖縄で構築したことにある。

「売ってくれる店にきちんと儲けが行く仕組みを作りたかったんですよね。それでこちらも好きなときに好きな雑誌が作れるような。『CONTE MAGAZINE』はいわゆる雑誌としては値段が高いかもしれませんが、それが成り立つことを考えてのことです。今は委託は8掛け、買い切りは6.5掛けで出しています」

最低ロット5冊とハードルも低いので、個人経営の店は多くが買い切りを選ぶようだ。売る側の立場からも、委託よりも買い切りのほうが自ずと売りたい想いは強まる。

「これはカフェをやっている経験が大きいと思います。カフェではほとんどの仕入れが生産者や作り手との直取引での買い取り。生産者とカフェ、カフェとカフェのお客様、その間でのお金の循環はとてもシンプルで、それでいて三者がそれぞれ好きなことを長く続けられる。この仕組みは出版でもできるはずだと思ったんです」

川口さんが出版の道を歩み始めたのは、大学4年の時に『SWITCH』でアルバイトを始めたのが最初。そして卒業後、そのまま正社員に。ではそもそもなぜ雑誌、なぜ『SWITCH』だったかといえば、福岡での高校時代から大ファンだった奥田民生さんとどうすれば会えるか、その方法を考えた結果だった。「雑誌はアーティストのプロモーションのたびに取材できるし、表現者として変化していく姿を一緒に見ながら記録できると思いました」と川口さん。そしてその夢は数年後、実現する。「インタビューはボロボロだったと思うけど、その時の記事は今読み返してもある種の熱があって、それはそれで宝ですね」。

入社当初は編集・執筆に限らず、営業、販売、広告取りなど、出版に関わる一通りのことを経験させられたそうだが、今思えばそれがとても勉強になった。だから今『CONTE MAGAZINE』で営業や販売、配送までこなすのも苦にならない。そしてその後、次第に編集に専念するようになると、ますます雑誌作りのおもしろさに夢中になっていく。

「『雑誌編集者は一度やったら辞められない』ってある先輩が言ったんですけど、ほんとその通り。取材相手、写真家、編集者、ライター、デザイナーなどいろんな才能が集まり、それをどう組み合わすかでページができてくる。それは雑誌作りの醍醐味ですね」