出版人列伝
出版人列伝出版人列伝
#13

雑誌『CONTE MAGAZINE』
発行人・編集長
川口美保さん

一方で、自分がずっと東京で暮らしていくことについては、あまり考えられなかった。地方に取材に行くたびにその地域で根を張って暮らす人々の姿に刺激を受けた。また小林武史さん、櫻井和寿さん、坂本龍一さんによって設立された<ap bank>の野外音楽イベント「ap bank fes」のパンフレットを毎年編集したことの影響も大きい。環境保護やエネルギー問題をテーマに取材を重ねるうち、成長だけを目指すのではない、オルタナティブな経済のあり方、小さな円(縁)が繋がっていくような暮らし方に関心と憧れを抱くようになっていった。

その編集経験は、彼女の人生を沖縄に向かわせ、カフェを開業するように導いたと思うし、『CONTE MAGAZINE』のコンテンツや流通のあり方にも繋がっている。

『CONTE MAGAZINE』はもちろん第3号、第4号と続けていく。雑誌は号を重ねるごとに、バックナンバーも含めて成長していくものだから。ただ期間は今の1~2年に1冊ぐらいが、持続可能なペースかな?とも思う。代わりに時々、写真集やアート作品集も出していくつもりだ。

「こうやってインディペンデントでもできる方法はあるので、沖縄の若いコたちにもぜひ雑誌や本を作って、売り込んでいってほしいですね。やっぱり紙の本の佇まいとか、雑誌をめくることで生まれる楽しさは、電子書籍やWEBでは味わえないものがありますから。誰に売りたいのか、誰に読んでほしいのか、そこが見えていればできると思うんです」

ただその際に気がかりなのは、本の佇まいを作る決め手となる「紙」の種類が少なく、用紙を自由に選択できない沖縄の印刷事情、そしてエディトリアルデザインを深く知るアートディレクターの少なさだ。そのへんの意識を若い人たちから変えていくことも含め、今後は編集ワークショップなどにも取り組んでいく。すでに目下、沖縄県立芸術大学の学生たちと一緒に首里エリアのスイーツを紹介する冊子の編集・制作を準備中。「首里」は「すい」と読むので、仮題は『スイスイスイーツ』! 沖縄出版界にとって、なんとも楽しみな冊子、そして活動になりそうだ。

conte

文・三枝克之、2022年2月24日