出版人列伝
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#02

沖縄時事出版
呉屋栄治さん/富濱朗さん

呉屋栄治さん(合資会社沖縄時事出版 編集部長)
呉屋栄治さん(合資会社沖縄時事出版 編集部長)

沖縄時事出版の巻1 編集部長 呉屋栄治氏

~老舗教材出版社としての挑戦~

50代以下の方であれば、沖縄を題材とした社会科や理科、国語などの学習ノートや資料集を学校で使った記憶があるだろう。その発行元が沖縄時事出版。そこで、営業や編集部員として、郷土教材編集に関わり続けてきたのが、呉屋栄治氏(1959年1月生まれ、63歳)である。

「教科書で授業を進めるのはもちろんのことですが、沖縄を題材にした補助教材も必要になってきます。他府県とは異なる風土なので、理科や社会科では特にそうです。また地域の特性や学習環境に合わせた教材作りも必要とされています。それを編集するのが私たちですね」。その表情には、児童生徒に良質な教材を届けているという自負と自信が満ちている。62年目を迎える老舗出版社としての重みも感じさせる言葉だ。

呉屋氏が出版の世界を志したのは、大学時代、マスコミ学専攻であったということが大きいが、実習で訪れた新聞社の雰囲気にも刺激を受けた。「雑然としているんだけど、それぞれが、新聞を出すという目的で動いている」ことだった。しかし、毎日ニュースに追われる新聞社ではなく、じっくり活字に取り組める出版社が性格に合っていると思い、沖縄時事出版を志望した。

入社当時は営業部への配属。「営業部では、幼稚園や保育園を回る絵本販売を担当。紙芝居や絵本の読み聞かせをしたことなども、編集部配属になった際に力になりました」。

その後企画部への配属が決まり、幼稚園向け教材の編集を担当した。「『おきなわのしぜんとこども』という4冊シリーズが私に影響を与えました。特に監修をお願いした元幼稚園教諭の大濱貞子先生には多くのことを教えていただきました」。新規教材を刊行したあと、学習指導要領や教科書を読み込み、先生方と意見交換を行うなど、本来業務の教材作りに邁進する日々が続いた。

2012年に編集部長に就任すると、本来の業務の他、しまくとぅば関連や県や市町村と連携した一括交付金事業、2013年からは県の文化活性化事業にて沖縄本普及などにも取り組むようになる。「この事業をきっかけに県内出版人との交流も増えてきました。2015年頃から東アジア出版人会議に関わるようになりましたが、その後は中国や韓国、台湾、香港、東京、沖縄の各地域で年2回開催される会議へ参加、忙しい日々が続きました。各地域の著名な出版人とのやり取り、沖縄側事務局長としての差配等、大変でしたが刺激がありました」と語る。その間、会議とは別に台湾や韓国、中国の出版社を訪問し、沖縄本を紹介。また、2018年からは台北国際ブックフェアへ沖縄本を出品する等の活動を展開。しかし、これらの活動もコロナ禍の影響で、2020年2月から休止状態となっている。

2019年3月には、沖縄出版協会が設立され呉屋氏も事務局長の一人として事業計画や予算書を作成。その年の11月には、沖縄で2度目の開催となる「東アジア出版人会議」が沖縄出版協会の主催で開催された。「新しいことにチャレンジするのは楽しい。何より名幸諄子社長の理解がありがたいです。社員にも感謝ですね」と語る呉屋氏は、出版協会主催の関東や関西、沖縄で開催される「おきなわ本フェア」にも尽力。「業務外の仕事に専念できるのも、編集者10名を抱える時事出版だからこそ。正直、迷惑をかけている部分もありますが、出版界の先を見すえた展開を考えなければならない」と語ってくれた。

老舗教材出版社としての挑戦、そして沖縄出版協会の今後の活動に期待したい。