出版人列伝
出版人列伝出版人列伝
#11

雑誌『モモト』編集長
いのうえちずさん

いのうえちずさん(雑誌『モモト』編集長)
いのうえちずさん(雑誌『モモト』編集長)

~沖縄文化を次の人へ引き継ぐために~

「100年残せる沖縄の雑誌を作りたい」

そんな想いで2009年12月に創刊された雑誌『モモト』(編集工房 東洋企画)。沖縄の文化を検証し、記録し、伝承する媒体として、今や沖縄になくてはならない存在だ。その創刊メンバーであり、2017年の第33号から編集長を務めるのが、いのうえちずさん。

『モモト』が一般の沖縄県民や県外の沖縄ファンはもとより、多くの専門家や研究者らからも厚く信頼されているのは、「義のない仕事はしたくない」という彼女の矜恃に拠るところが大きいと思う。

「仕事だから自分の魂もたまには切り売りします。それはまた生えてくるから。けれど沖縄を売るようなことはしたくないんです。それと沖縄のウリを伝えることは全然違う」

そんな気骨がウチナーンチュの琴線にも触れるのだろう。いのうえさんは広島県出身のいわゆる「ナイチャー」にもかかわらず、多くの沖縄の魂に根ざすようなプロジェクトに請われ、それら団体の要職も担っている。

以前は<南洋群島帰還者会>の理事を務めていた。現在は<NPO法人首里まちづくり研究会>の副理事長として、首里城再建に地域住民視点での提言を行うべく、<首里杜(すいむい)地区まちづくり団体連絡協議会>の設立に奔走。また、沖縄県立第二高等女学校<白梅同窓会>の中山きく会長から指名され、白梅学徒隊の沖縄戦の語り継ぎと慰霊祭の継続のための団体<若梅会>の代表に。そして目下多忙を極めるのが、いよいよ2022年4月末に開館が迫った「首里染織館suikara(すいから)」の役員としての仕事。首里織や琉球紅型を中心に、沖縄の伝統染織文化の未来を構築していくための施設だ。

『モモト』編集長、<東洋企画印刷>執行役員として編集・執筆をこなしながら、これだけの活動を同時に行うそのパワーはどこから来るのだろう?

「どれも誰かがやらなきゃいけないことです。でも大変そうで引き受ける人がいない時に、声がかかる。だからやるしかない(笑)。どれも本当はやはりウチナーンチュがやるべきで、私は次の人へ引き継ぐ役割だと思っています」