出版人列伝
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#09

山田書店 タウンパルやまだ
山田隆雄さん/山田克己さん/山田美智子さん

だが、大手の出店はそこでストップした。人口や採算等を考えてか、次に来るだろうとかまえていた別の大手書店も二の足を踏んだようだった。

それでも、郊外の大規模チェーン店だけではなく、商店街の観光地化や、駐車場問題、若い世代の本離れ、電子化の波、大手流通による購入形態の変化…。問題が次々と形を変えて現れる中、離島の地元書店としての生き残り法とは何だろうか。

「書店だけの単独店では厳しかったはずですが、うちにはお互いを助け合える仕組みがあって良かったと思います。本だけでなく、文具等の買い回り品も扱っていたこと。扱う種類が多いのも、一つがダメでも別のを販売できるということ。20年前に移転した際に付けた店名のタウンパルとは『町の仲間』という意味ですが、それまであった書店だけというイメージを払拭したかったんです。今後も地域のニーズを取り入れて応えていきたいですね」と全体を見据える隆雄さんがいうように、書店が好景気だった時代には気付かなかったはずの部分が、逆に書店を支えてくれた。

店長を務める克己さんはどうだろう。「特徴づけて、なおかつ商店街にこだわって存在することだと考えています。本土の真似をしてもしょうがない。思い切って郷土書を充実させたコーナーは、観光客が多い通りとあってうちの目玉です。観光客は沖縄県産本をたくさん購入してくれ、リピート率も高い。それだけ県産本は魅力があるんでしょうね。最近は、SNSでの発信にも力を入れています。それでも何より僕らは自動販売機ではないから、物を売るだけじゃなく、お客さんに愛される心遣いを忘れてはいけないよ、とスタッフに言っています。『2週間かかっても山田さんで買うさ』と言ってうちを選んでわざわざ来てくださる方々に支えられていますから。僕らが商店街という場所にこだわるのは、自分にとって生まれた時からの場所を守りたい、商店街の灯を消したくないという思い、郊外店には負けたくないという対抗心もある(笑)」と語る。

お二人とも飄々とした気さくな雰囲気をまとっていて、その中に内包する確固たる信念を人に圧として決して感じさせないのだが、それは島という狭い地域で長年、客商売に携わってきて身についたものなのかも知れない。

話を終えて、事務所から店に回る。なんだか無性にここで本を買いたい気分だ。レジには母親と文具を買いに来た小学生。雑誌コーナーでは立ち読みする人。郷土書コーナーには真剣に悩んでいる様子の人。「三線の本ありますか」とかけ込んできた本土訛りの中年男性は、スタッフに案内されていった。

店内をウロウロしていると、先ほど話の合間に店長が教えてくれた話題の本を見つけた。おもしろそうな表紙に、山田さんたちの明るい笑顔が重なる。やっぱりこの書店は人だとうなずいてレジに向かった。

取材・執筆 入松田こずえ