沖縄出版協会は2019年に設立されましたが、その後、多くの方から沖縄の出版界事情に関する問い合わせがありました。そこで、本協会会員による沖縄出版界の歴史に関する記述をホームページへ掲載することにしました。断片的な記述ではありますが、今後も記事を増やしていくつもりです。また、「東アジア出版人会議」のコーナーにおいても、沖縄の出版状況に関する発表がありますので、合わせて読んでいただければ幸いです。
戦後初期沖縄の出版事情
1945年4月1日、米軍による沖縄上陸作戦が開始され、6月23日の日本軍の降伏まで激しい戦闘が展開され、沖縄本島中南部は文字通りの焦土と化します。実は、実際の戦闘は、3月26日の慶良間列島への上陸から始まり、9月頃まで各所で展開されますが、日本軍兵士9万人、沖縄の住民は十数万人が犠牲となりました。沖縄戦では、兵士よりも住民の死者が遥かに多かったのです。住民は米軍の攻撃だけではなく、日本軍による私刑、処刑等によっても多数犠牲となり、後々までも続く反大和の情念を生み出しました。
沖縄本の概史―1950年代~1990年代そして21世紀
敗戦後の廃虚の中、倦怠感を残しつつ出発した沖縄の出版界ではあるが、そこから扉を押し開いて出てきたのは、『鉄の暴風』(沖縄タイムス社編)である。この本は、沖縄住民の体験証言をもとにまとめられた初めての沖縄戦記録であり、沖縄戦という沖縄史上類を見ない悲惨な出来事を、戦争遂行者である兵士ではなく、戦いに翻弄され、流されていった住民の目を通して描いた書である。その後出版された戦記物は、この『鉄の暴風』の手法を踏襲しているといってもいいほどの名著である。その意味でも、五十年代の出版はこの『鉄の暴風』に代表されるといえ、その後しばらくは、忌まわしい過去との決別、新たな沖縄の試行ともいえる本たちが出版されていくようになる。