第 24 回東アジア出版人会議 台湾 台南会議(2018 年 5 月) 発表原稿

「CONSTELLATION(コンステレーション)」まとめる編集から、広げる編集へ ~セルフメディア<WAVE UNIZON>の着想~

三枝克之

「編集」とは?

「編集」とは何か? 各国を代表する編集者が集まるこの東アジア出版人会議で、そんな質問は不要だろう。日本を代表する辞書の一つ、『広辞苑』にもこう書いてある。

「資料を或る方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること。」

まさにそのとおり。今の時代はこのうちの「など」の部分に、電子書籍やWEBサイト等も加わっているが、おそらくみなさんの仕事はこの定義で間違っていないはずだ。

かくいう僕もその末端を担っている一員である。とはいえ僕の場合、文芸書や人文書のような文字本を手掛けることはまれだ。写真集や絵本や図鑑、あるいは画像とテキストを組み合わせたビジュアルブックを中心に編集や著作をしている。僕の編集者デビュー作の『空の名前』も、日本の天候や季節にまつわる言葉を、それをイメージさせる写真と組み合わせて紹介した本で、書店の棚のジャンルを飛び越えた編集とデザインが話題を集めた。それは僕にとっては「編集」という技術に潜む創造性の実験でもあったのだ。

この場にいるみなさんは、まず本が好き、文章を読むことや書くことが好き、そして出版という活動や編集者という仕事が好きな方々だと思う。しかし告白すれば僕は、本や出版はたくさんある好きなものの一部でしかない。じつは僕が愛し、こだわるのは、「編集」という技術や創造性そのもの。みなさんも「編集に必要な能力のABC」というのはよくご存じだろう。AはArtist、つまり知的創造力。BはBusinessman、つまり営業マネジメント力。 CはCraftman、つまり職人的技術力。僕はこれは何も出版の世界に限ったものではなく、むしろその枠をはみ出てもっと広義に解釈することで、さまざまな活動に応用できると感じている。出版界の現状を見れば、その未来が明るいと無責任に言うことはできない。しかし「編集」というノウハウ、何かを「編集する」という発想自体は、これからの時代に求められているものだと思う。

モンタージュとは?

僕自身はずっと映画が好きで、少年時代から自主映画を作っていた。そして大学では映画学を学び、「モンタージュと長回し」を卒業論文のテーマにした。モンタージュとは複数のショットを組み合わせて表現することで、要するに映像編集のことだ。たとえば、階段の上にあるベビーカーを見上げたショットがある。それに続いて、上のほうを見ながら「あ!」と叫んでいる女性の顔のショットを繋げる。するとこの二つの映像を見た人の頭の中には、階段を転げ落ちるベビーカーの映像が浮かぶ。たとえそのショットがなくてもだ。あるいは、笑っている赤ちゃんのショットがある。それに続いて、笑っているお母さんのショットを繋げる。するとこの赤ちゃんのかわいさは、赤ちゃんだけを映したショットよりも際立って感じられる。つまり、モンタージュ=「編集」は、AとBを結び付けることで、Cという別のものを伝えることもできれば、AとBを結び付けることで、その関係をより強く、わかりやすく、感覚的に伝えることもできる技術なのだ。

そう、僕にとっての本の編集は、映像の編集の応用だった。その視点から考えれば、本にはまだまだ「編集」で新しいことができるような気がした。『空の名前』が出版業界で目新しく映ったのはそれが要因だろう。

カフェを「編集」する

異論もあるだろうが、僕にとって本はパッケージである。表1があり、表4があり、その間に背によって綴じられた本文ページがあるという構造のパッケージだ。読者は表紙を開き、ページを繰るという動作でこのパッケージの中身に触れていく。本の編集とは、この構造をいかに利用して、表現したいものを読者に伝えていくかという技術といえよう。

そう考えると「素材を集めて、選んで編み、あるパッケージにまとめることでユーザーに伝える」、そのために「知的創造力と営業マネジメント力と職人的技術力を駆使する」という「編集」は、他の創造的分野や日々の生活にも生かせる技術かもしれない。たとえば展覧会のキュレーションも、音楽フェスティバルのプロデュースも「編集」だ。インテリアをコーディネートするのも、旅行をプログラムするのも「編集」といえよう。あるいは地域おこしやコミュニティ作り、組織運営にも「編集」という思考は役立つはずだ。

じつは以上に例として示したことはすべて、僕自身がフリーランスの編集者になってから、本の編集や著作、執筆業と並行して実際に行ってきた活動だ。そしてその集大成的にスタートし、今も続けているのが、沖縄で2005年に創業したカルチャーカフェ、<CAFE UNIZON>である。

このカフェでは飲食の提供はもちろんだが、毎月展覧会や物販フェアを開催し、ライブ、トークショー、セミナーなどを月1~2本ペースで12年間企画し続けている。そしてカフェ的アプローチで沖縄文化の発信を試みている。僕にとってこの<CAFE UNIZON>は、カフェという空間を使って月刊誌を「編集」しているような感覚だ。おかげさまで今では、沖縄の人々に文化発信基地の一つとして親しまれ、日本はもとより、ここ台湾からも、また中国、香港、韓国からも多くのお客さまがいらしてくれている。

カフェ as メディア、沖縄 as メディア

そんな多面的な「編集活動」を続けてきて、感じたことが二つある。

一つは、カフェというのは、思っていた以上に力強い「メディア」=「人に伝えることのできる媒体」だということ。そのカフェの高いメディア機能を、編集者である僕自身がまだ十分に使いこなせていないのではないか? 実店舗であるカフェのメディアとしての可能性を、執筆や編集、出版、プロデュースといった従来の僕の「人に伝える仕事」と連動させるとどうなるだろう? もしかしたらその先には、新しいメディアのあり方、新しいメディアの役割が見つかるかもしれない。

そしてもう一つは、沖縄/琉球の島々自体が、もともと「メディア」だったのではないか?という仮説だ。古琉球の大交易時代の以前から、琉球人は大海原に船でこぎ出し、東アジアをはじめ、東南アジア、南アジア、あるいは太平洋上の島々まで出かけていた。そして琉球は「文化の中継地点」としての役割を担っていた。その貿易的・外交的営みの中から沖縄の風土にあったものを取り入れ、独自に発酵・昇華させたのが沖縄/琉球文化だ。いわば「文化の中継発信」こそ、古来、沖縄/琉球が地理的にもっとも得意とした分野であり、資源のない小さな島嶼国にとって数少ない活路だったといえる。そしてその地勢的条件は今でも変わらない。このかつての沖縄/琉球の一連の活動を現代的に言い換えれば「メディア」。つまり「メディア」であることは、沖縄にとって観光産業とともに並立すべき「天職」のような気がしてきたのだ。

これら二つの感覚は、これまで僕が手掛けてきた「まとめる編集」の他に、「広げる編集」とでも呼ぶべきものがあるのではないか?との思いを抱かせた。そして2017年12月に船出したのが、<WAVE UNIZON>というWEBプレスだ。かつて沖縄の先人たちがサバニという小舟を駆り、波に乗って往来したように、沖縄・奄美を含む琉球弧から、東アジア、東南アジア、南アジアなど、「モンスーン・エリア」ともいえる地域に取材。そのカルチャ ーやモノ・ヒト・コトを伝え、そこから新たなプロダクツや潮流、価値観を生み出せればと願っている。そしてこの活動を沖縄から発信することで、日本の南西端の一地域として捉えがちだった沖縄を、モンスーン・エリアの一拠点として捉え直したい。このパラダイムシフトこそが、沖縄のブランド力を育むための鍵のような気がしている。

<WAVE UNIZON>試験航海中

<WAVE UNIZON>は生まれて4ヶ月しか経っていない零細なセルフメディアだ。記事もまだ少なく、多言語表記も手つかずの状態である。これによってどういう収益の上げ方があるのかもはっきりとは見えていない。しかしそれでも、この4ヶ月にあったリアクションは、予想以上のものだった。

最初の特集では台湾を取り上げ、台湾一周の旅をしながら、モノを集め、ヒトに触れ、コトを紹介した。集めた台湾の民芸品や雑貨をカフェで展示販売したフェアもたいへん好評だった。東京の出版社からは沖縄と台湾を繋ぐ旅の本の依頼があった。三次元イベントとして開催した「台湾の市場から今後の沖縄の市場文化を考える」という趣旨のミーティングは大いに盛り上がり、より具体的なプランを作るための第2回開催が決定した。その参加者のひとりからは、台湾原住民族のさまざまな部落を訪ね歩いた手記が持ちこまれ、掲載準備中だ。このような双方向性とスピード感は、WEB、カフェ、イベントなど、媒体の枠組みを超えた編集メディアならではの醍醐味だろう。

そして何よりも驚いているのは、まだ試験航海中のようなメディアにもかかわらず、今こうして台南の地に来て、この東アジア出版人会議で発表の機会をいただいていることだ。 1~2年後には、この二次元のWEBプレスでありながら、三次元的なモノ・ヒト・コトの流れも備えた媒体について、もっと具体的な成果や事業実績を報告できるだろう。

「CONSTELLATION」とは?

最後に、今回自分で初めてWEBプレスを手掛けることで見えてきた「編集理論」について、少しだけ紹介したい。それを仮に「CONSTELLATION(コンステレーション)」と呼ぶことにしよう。その語の直接の意味は「星座」。しかし僕がこの言葉を引っ張ってきたのは、ユング心理学の用語からだ。これは、一見無関係・無秩序に配置されているように見えるものが、いつしか全体的に意味を持つものであると気づくことをいう。宇宙に散らばる星々も、それを頭の中で星を選び、それらを結んでいくと、そこにギリシア神話の英雄や動物たちの姿が浮かび上がってくるように……。

<WAVE UNIZON>もこの「CONSTELLATION」を念頭に「編集」してみたい。僕はこれまでどんな種類の「編集活動」をしようとも、最終的にはあるパッケージ、完成形へと「まとめる編集」に取り組んできた。しかしこの<WAVE UNIZON>にはパッケージはなく、完成形も求めない。むしろ増殖し、成長し、進化していく過程そのものを表現としてみたい。つまり「広げる編集」だ。そして次第次第に現れて消えるコンテンツから、そのつどつどの意味=CONSTELLATIONに気づいていきたいと思うのだ。

「編集」という技術はメディアが何であれ有効だ。そしてそこに未開拓の編集方法論があることを発見したなら、試さずにはいられない。なぜなら僕は「編集者」なのだから。

三枝克之(KATSUYUKI MIEDA)
編集者、著作家、プロデューサー。<WAVE UNIZON>編集長。1964 年、兵庫県生まれ。東京でのレコード会社勤務、京都での出版社勤務を経て、1995 年よりフリーランス。2003年に沖縄へ転居。2005 年に宜野湾市で<CAFE UNIZON> 開業。企画編集作品は、トータル120 万部を超えるベストセラー『空の名前』三部作(角川書店)をはじめ多数。著書に、「万葉集」をポップス風に訳した『恋ノウタ』(角川文庫)、世界各地の月の神話と写真を綴った『月のオデッセイ』(リトルモア)などがある。『BRUTUS』『& Premium』(マガジンハウス)などの雑誌で、沖縄カルチャーの記事も手掛ける。
※プロフィールは発表年度のものを、そのまま掲載しています。