第27回東アジア出版人会議 沖縄会議(2019年11月) 開会の挨拶

東アジア出版人会議 沖縄会議 開催の挨拶

(有)榕樹書林
武石 和実

沖縄における2回目の東アジア出版人会議が、難産の末ではありますが、ようやく開催にこぎ着けることが出来ました。この開催自体が、広く東アジア各地域の出版界のご支援があったればこその出来事です。まずはこのご支援に感謝致します。

琉球・沖縄は、小さい地域です。その小ささは私達はいつも自覚しております。いや自覚をせざるを得ないのです。このことは、出版界のみならず、全ての領域について言えることです。

去る2月24日、沖縄では辺野古に新しい軍事基地を造ることを巡って県民投票がありました。結果、7割超の方が辺野古新基地建設への反対を表明しました。これに先立つ2018年の知事選挙では、現知事の玉城デニー氏が8万票差の圧倒的大差で基地推進派を破っております。にもかかわらず、沖縄の人口は日本の全人口の1.1%足らずで、日本というワク組の中では圧倒的少数派になってしまいます。かくして日本政府は沖縄県民の圧倒的多数による鮮明な意思を一顧だにせず、これを無視し、「丁寧な説明」という名目の無視によって、基地建設を進めております。これが「小さい」ということの意味する所です。

しかし、琉球・沖縄は沖縄戦という悲惨と、米軍による軍事占領支配という苦難を乗り越えて、今琉球・沖縄とは何者なのか、という根元的な課題に向き合っています。その先端の役割を担っているのは、まさに知識産業としての出版でありその成果としての書物です。

書物はその時々の社会を深く刻印して行きます。どの様な本も様々な事象、問題の反映です。のみならず、歴史的な意味のある本は永遠に残っていきます。文化を伝える最も基本的なものは「本」なのです。

最近の沖縄をめぐる本の出版は本土での出版も含めれば、ほとんど洪水のごとくです。これはいわゆる「沖縄問題」の大きさの反映です。多くの人が沖縄問題とは何か?そもそも琉球・沖縄とは何かという問いかけとその答えに飢えているのです。我が地元沖縄でも出版点数は年々拡大しております。しかし、地域的基盤が小さいが故にその経済的基礎は弱く、思う通りのことが出来ているとは言い難いのが実情です。

私達は、2016年に東アジア出版人会議に初参加させていただいて以降、中国・台湾・香港・韓国そして日本の中心的な出版社、編集者と交流を重ね、様々な刺激を受けつつ沖縄における出版活動の質的・量的飛躍への道筋はないものかと手探りで進んで参りました。

今年の3月22日、私達は県内版元15社が参加して「沖縄出版協会」を設立致しました。県内の出版社が一つにまとまった組織を作る、というのは実はこれが初めてです。そして、この結成も東アジア出版人会議の活動と連動して出来たことです。

今回の会議では、そのテーマとして「書物による文化交流」を掲げました。あまりに漠然として今更何を、という声も聞こえて来そうですが、実は沖縄は歴史的には書物による文化の流れを受け止めるだけで、自ら発信することはほとんど出来ていません。強いてあげるならば程順則が中国から持ち込んだ儒学のテキスト『六諭衍義(りくゆえんぎ)』が、徳川幕府のお気に入り、寺子屋のテキストとして広く日本中で使用されたということがあります。

しかし琉球での出版は王国末期に「琉球板」と言われる一連の本が出ておりますが、それらは外に向けて発信するという性格のものではありませんでした。

琉球が日本に強制的に併合された1879年の「琉球処分」以後もその状況は変わらず、沖縄の人々自身による沖縄出版の発展は沖縄戦以後のこととなり、それが一定の産業と呼べるほどになったのは、1972年の「本土復帰」以降のことと言っていいでしょう。まだまだ歴史が浅いのです。

沖縄では心ある人は皆、書物に飢え、しかも本土との流通で入手がままならないが故に、また本土とは異なる文化状況、政治的・社会的状況ゆえに、出版が大きく前進し、今では全国でも類を見ないほどの地域出版の場となっています。しかし、この「地域」というのも本土の関係においてそう言われるだけで、沖縄の出版人は自分達の出版を「地域出版」とは思っていないのです。規模は小さいとはいえ、沖縄から東アジアへの本の飛翔を心密かに願い目論んでいるのです。

沖縄にはまだまだ色々な可能性があります。その可能性を提示して見せるのも出版の仕事の一つです。一つの本が沖縄の人々に希望を与え、夢を与え、その為に動き出すエネルギーの源となってくれることを私は期待し、確信しております。

そしてこのことを私達は書物を通しての文化交流の中から学んで行くことでしょう。

中国、台湾の経験、韓国の経験、そして日本の出版活動の経験はこれからの私供の出版活動の大きなバックボーンとなります。

私達は前進して行きます。この会議に参加した諸地域の編集者との交流は必ずや新しい道を提起してくれるものと思います。本会議の成功の為に頑張りましょう。

武石 和実(Kazumi Takeishi)
1949年秋田県に生まれる。1972年に沖縄に移住。1980年古書舗緑林堂書店を開業。1991年『空手道大観』を出版。本格的に出版に足を踏み入れる。1993年『琉球弧叢書』刊行開始。1994年『沖縄戦後初期占領資料』(全100巻+別巻1)刊行。1995年『冊封琉球使録集成』刊行開始、第1回は『陳侃使琉球録』。1996年全沖縄古書籍商組合結成。以降、今日まで組合長を勤める。1997年個人企業を廃し、有限会社榕樹書林を設立。出版を本格化させる。2011年『冊封琉球使録集成』全11巻完結。2014年琉球新報社「社会活動賞」(出版・文化部門)受賞。2019年6月現在で213点刊行。沖縄タイムス出版文化賞、伊波普猷賞、パジュ出版特別賞、岩瀬弥助記念書物文化賞等、多数受賞
※プロフィールは発表年度のものを、そのまま掲載しています。