第 21 回東アジア出版人会議 10 周年記念沖縄 会議( 2016 年 11 月) 発表原稿

県産本をアジアへ

 宮城一春

沖縄の地理的環境

沖縄は、日本の南に位置する小さな県です。日本に 47 ある都道府県の中で 44 番目の大きさです。つまりは、下から4番目に小さい県ということになります。人口は約 140万人。日本全体の人口が1億2千7百万人(2016 年)ですから、日本の中で一割強の人々が沖縄に住んでいることになります。

それでは、東アジアの地域と沖縄を比較することにしましょう。まずは中国。面積が約960 万平方キロメートル、人口が約 13 億 7600 万人。韓国は、面積が約 10 万平方キロメ ートル、人口が約5千 150 万人、台湾は面積が約3万6千平方キロメートル、人口が約2350 万人、香港は面積が約 1103 平方キロメートル、人口が約 729 万人となっています。ちなみに日本の面積は約 37 万 8000 平方キロメートルとなっています。(統計資料は、いずれも日本外務省ホームページより引用)

アジア地域は世界の中でも有数の人口を抱えていますが、その中でも沖縄が、特に小さな地域であることを、ご理解いただけると思います。

東アジア地域の人口
東アジア地域の人口

そのような環境のもとで、沖縄の出版は地道に活動を続けてきました。それも、太平洋戦争の敗戦から 1972 年まで米軍施政権下にあったという特異な歴史を持つ沖縄県です。私たち沖縄出版界の先達たちは、米軍の圧力に抵抗しながらの出版活動でした。結果、おのずと市場は限られてきます。しかし、その中でも出版活動は続けられました。沖縄の人々は沖縄が大好きです。ですから、沖縄を主題とした県産本を書いたり、購入したりすることが多いといえます。県産本は、県内を主な市場としていますが、それを支えてきたのが沖縄の人々であったことはいうまでもありません。

沖縄の出版の歴史を詳しく語りたいところですが、論旨からずれてしまうので残念ながら、詳しいことは他の出版人にお譲りすることにして、前に進みます。

沖縄と東アジア出版人会議

昨年の 11 月、台湾会議に参加させていただいたことをきっかけとして、沖縄が6番目の地域として正式に加入が認められました。

しかし、その前まで、沖縄の出版人で東アジア出版人会議のことを知っているものが何名いたでしょう。大半が知らなかったと思います。もちろん私も知りませんでした。

台湾会議には、東アジア出版人会議の情報を全くといっていいほど知らないまま、半分期待、半分怖いもの見たさで参加したのですが、東アジア出版人会議は、私の想像を超えたところでした。

本が話題の中心で、本のことばかり考えて良い時間。私にとって至福の時間でした。二日間、本のことしか話をしない会議であり、本が好きで、本を編集・出版することを生業としている私にとって、濃密で濃厚で全く飽きることのない時間を過ごすことができました。

まさしく出版人の、出版人による、出版人のための会議でした。沖縄に帰ってきてからは、この喜び、楽しさをいかに沖縄の仲間へ伝えようか、考えてきました。

そして、沖縄を主題とした本を、東アジアの地域の方々へ読んでほしいとも思うようにな ったのです。そこには大きなビジネスチャンスが広がるであろうことにも気づきました。良い手本が東アジア出版人会議になると思ったのです。これまで、東京を中心とする日本の出版界の行ってきたことが、私たちにとって、ひとつの重要な指標となることにも気づいたのです。

県産本をアジアへ

現在、出版業界では、グローバル化が進んでおり、多くの国々や地域が翻訳出版に力を入れています。日本においては、これまで欧米の書籍を中心に翻訳出版が行われてきましたが、近年では東アジアの各地域の翻訳出版が盛んに行われるようになってきました。これは、各地域における出版文化の醸成とともに、翻訳者や読者のレベルが海外へ向いてきたことが要因のひとつではないかと思います。また日本への関心が高いことも、日本の翻訳物が多いことの要因としても挙げられるでしょう。実際、今回、東アジア出版人会議へ参加して、台湾や香港の書店に行くと、日本の本の翻訳物が多く陳列されていることも目の当たりにしました。日本人作家の翻訳物がベストセラーランキングの上位を占めることも珍しくないとも聞きました。

翻って、沖縄の出版物はどうかをみてみると、残念ながらほとんど知られていないのが現状です。それどころか、海外だけではなく、沖縄以外の都道府県の方々にもあまり知られていないのです。

沖縄はいうまでもなく、全国でも有数の出版王国です。日々、さまざまな沖縄を主題とする書籍が編集・発刊されています。しかし、それは日本国内のことであって、東アジアの国々で、沖縄関連の書籍は、台湾と香港で必死に探したところ、何とか数冊の観光ガイド本があるばかりでした。

全国的に、またアジアの諸地域でも、沖縄自体の知名度は高く観光地として認知されているのは、観光客が増加していることをみても理解できます。しかし、せっかく沖縄に来ても、沖縄の情報をほとんど知ることがないまま、風景や食べ物だけを楽しみ、帰国していくのは県民として忍びないものがあります。

国内では出版流通の問題があり、県外の書店へ並べることは難しいことです。それは沖縄の版元が独自に取り組む問題であるような気がしますので、本稿では書くことは控えたいと思います。

逆に、アジアの地域を市場のターゲットとすればどうでしょう。

沖縄で発刊されている書籍を県内入域者数上位の地域で翻訳出版することができれば、沖縄の大きな情報発信となることは間違いありません。

幸いなことに、県産本が韓国や台湾で翻訳出版されつつあります。沖縄を代表する作家の作品が中国や韓国で翻訳されるというニュースも新聞で目にしたばかりです。県産本がアジアの地域で読まれることは、沖縄で出版に携わるものとして、これ以上の幸せはありません。

しかし、現状は、翻訳を持ち込まれるのを待つことしかできていません。県産本の翻訳出版をアジア地域の出版社に働きかけて提携し、当該地域でその出版社に発刊してもらう。受け身から積極的に働きかけるという姿勢に変化することが大切です。さらに発展させて考えます。県内の編集者やライターが、アジア地域の出版社に企画を提案し、その地域に合った沖縄関連本を発行するのです。さらにいえば、硬直化した出版の流通形態を沖縄が破壊し、新たな流通システムを創りあげることも可能となるかもしれません。

今の私の夢といってもいいでしょう。

そのためには、沖縄の出版事情や出版社および出版人のことを当該地域の出版人に知ってもらうことが必要です。そこでは、東アジア出版人会議が重要な構成要素となりえます。沖縄と東アジアの各地域の出版人同士の交流を図ることができます。これは非常に重要なことです。沖縄を知ってもらうためには、ソフト面の情報を発信することが第一だと考えるためです。出版は、国民の文化度を測る指標になりえるということを聞いたことがあります。その話でいえば、沖縄は、沖縄独自の成熟した文化を築き上げたことになります。しかし、成熟した文化は、いつかは爛熟化し、衰退していくものです。文化を文化あらしめるためには、外部との積極的な交流は必要不可欠なものだとも思います。

「将を射んとすればまずは馬を射よ」という格言がありますが、各地域の読者に沖縄を題材とした書を読んでもらうためには、その地域の出版に精通した出版人を納得させることが早道なのです。東アジア出版人会議は沖縄の出版界にとって絶好の好機といえます。これを機に沖縄の出版界が一致団結して他の地域の出版人との交流を深め、多くの出版の成果を世に問うことができるよう図っていきたいと考えます。沖縄で開催される初めての出版国際会議が内外に与えるインパクトは非常に大きいものがあるといえましょう。

東アジア出版人会議への加入によって、日本や沖縄の出版社ではなく、東アジアの出版社からの書籍発刊は、かなえられるものだと思います。それが沖縄のことをアジアに知らしめること、そして沖縄の主要産業である観光に果たす役割は非常に大きいものになることでしょう。その効果は計り知れないほどのものだと推測します。