第 21 回東アジア出版人会議 10 周年記念沖縄 会議( 2016 年 11 月) 発表原稿

「沖縄県産本」とは何か

 友利仁(沖縄タイムス社出版部長・沖縄県産本ネットワーク事務局長)

これまでの沖縄側からの報告にありましたように、沖縄は日本の中の1県に過ぎないのですが、その歴史・文化において、他の 46 県とは異なる、際立つ特色を持っています。その特色は、同時に「汎アジア」という側面も持っていると言えるかもしれません。その意味で、(東京中心の)日本からはもちろん、東アジアの皆さんからの熱いまなざしを感じないわけにはまいりません。そのことが、沖縄が本会議において6番目の地域として認められた理由だと考えています。

沖縄の出版事情を語るときに「沖縄は読者よりも著者が多い」という、やや冗談めいた言葉があります。沖縄県の一人当たりの書籍・雑誌購入額は年間 11,280 円でダントツの全国最下位です(全国平均は 15,179 円、資料:『2011 出版物販売額の実態』より)。にもかかわらず、出版の盛んな地域であるといわれるのはその出版点数の多さにあると思います。私の集計では、沖縄関連本の刊行点数は、年間 400 点以上(書店に並ぶ新刊書のほか、非売品の書籍も一部含む)が確認でき、その状態はここ数年続いています。自分史・個人史、市町村史・字誌も数多く生み出され、市販されている書籍でも地方出版に多い分野である文学、歴史はもちろん、芸能、産業、言語など多彩なジャンルが見て取れます。「読者より多い」というのは誇張でしょうが、それだけ著者が多いというのは間違いありません。つまり沖縄は「本になる題材が多い」ということが言えるでしょう。

私が今回発表するテーマは「沖縄県産本とは何か」というものです。沖縄県産本(以下、「県産本」)とは沖縄県内にある出版社から発行される出版物を指します。私は現在、県内出版社など 23 社で構成する「沖縄県産本ネットワーク」の事務局長を務めております。沖縄県産本の歴史となると長きにわたるため私の手に余りますが、今回は主にネットワークが結成された 1994 年以降の沖縄の出版事情をお話しすることで、今後の課題にも触れていきたいと思っています。

県産本ネットワークの結成は 1994 年8月3日のことです。昨日の会議で発表をされました宮城一春氏が中心となり、沖縄県内出版社の若手・中堅編集者に呼びかけたところ、当日は7社から 14 人が参加しました。

ネットワークの当初の趣旨はあくまでも交流と情報交換、同世代の横のつながりを意図したものでした。ほぼ毎月集まり、酒の席でそれぞれの抱える仕事の情報を可能な限りオ ープンにしながら、他の参加者のアドバイスを受けるというもので、ネットワーク結成当時まだ 20 代半ばの私は、同世代や近い年代の先輩の話を聞いて多くの刺激を受けたものです。酒を飲みながらざっくばらん、というスタイルは 20 年以上経った現在も変わっていません。沖縄という狭い市場のパイを争うライバル同士の集まりではありますが、友好的な関係が続いていると思っています。

このようにして結成された県産本ネットワークは、結成から4カ月後の 94 年 12 月末に新刊案内フリーペーパーの「県産本ニュース」を創刊し(2010 年6月の第 64 号まで発行)、 99 年 10 月には「県産本フェア」(今年も第 18 回を開催)を主催するなど、懇親会から発展して同業者組合のような性格も帯びるようになってきました。

結成当初から「県産本」を名乗り、そのPRに努めていこうというのが、私たちの共通の思いでした。その活動の甲斐もあってか、「県産本」イコール「沖縄県産本」という認識は深まっていったと思います。簡単に言えば、「県産本」を名乗る県は、沖縄以外になかったためです。ここでなぜ私たちが「県産本」と称したか、なぜ他県には県産本がないのか(最近の、一部の例外を除く)という点について説明したいと思います。