出版人列伝
出版人列伝出版人列伝
#08

沖縄文化社
徳元英隆さん

徳元英隆さん(有限会社沖縄文化社 代表)
徳元英隆さん(有限会社沖縄文化社 代表)

~ベストセラーよりロングセラーを!~

「活字を扱う仕事がしたかった」と語るのは、沖縄文化社編集長の徳元英隆氏。徳元氏が出版の世界に足を踏み入れたいと思うようになったのは、学生時代。大学で沖縄の歴史や文化、民俗を高宮廣衞、平敷令治、仲松弥秀の各氏に教えられたのがきっかけ。先生方の教えや著作物に触発されて、沖縄をテーマにした編集の仕事を志したという。

卒業後、沖縄時事出版に入社。「時事出版の主力商品は学習教材、そこでノート類や社会科の副読本を手掛けるようになった。やりがいがあったね」。当時は児童数が多く、郷土教材にも目が向けられた時代だった。その後、沖縄県祖国復帰協議会が編集する『沖縄県祖国復帰闘争史』の発刊企画に携わった。「しばらくして、絵本分野に参入することになったので、後輩に後を託し、僕は絵本に専念することになった。それこそ目の回る忙しさだったよ」。 

しかし、次第に一般書籍を手掛けたいという思いが募ってきた。ちょうどそのとき、雑誌『青い海』編集部からの誘い。そこでは書店営業や版下製作の手伝いもした。単行本を編集したくて移籍した徳元氏だが、「2年経って社長が交代し、雑誌オンリーの方針が出されたタイミングで会社を辞し、沖縄文化社を創業した。自分の会社だったら、作りたい本が作れるからね」。  

スタートの段階では、他社の本の委託販売から始まり、高校の生徒指導部の先生方とのホームルーム用教材、中高校生用の生徒手帳などを手掛ける。それと並行して進めたのが、地域に根差した沖縄文化シリーズの単行本。当時は大型本や専門書が主流の時代で、若者向けにわかりやく紹介した読み物が極端に少なかった。そこでリーズナブルな定価設定をモットーとした。また「他社と競合しないよう、沖縄の文化や歴史の入門編という位置づけの本を出していこうと決めました。ベストセラーよりロングセラーを狙う戦略です」。さらには、背表紙に細くても長く続くようにとアルファベットを付記した。Aから始まった本のシリーズは好評で、大方が狙い通りロングセラーとなり26 冊目のZまで無事に刊行できた。また、絵本化されたり、市原悦子朗読の DVD になったり、地元の新聞やラジオ番組でも取り上げられたりもした。

この沖縄文化シリーズZの書『沖縄伝説の歩きかた』の著者は、息子の大也氏であっ た。県外から呼び寄せた大也氏が、奇しくも最後のZの本を執筆し、編集したということになる。その後、大也氏はDTPの技術を活かし、広告代理店で2ヶ年ほどグラフィックデザイナーの仕事についたが、現在は学校教材の老舗である沖縄時事出版の編集者として勤務している。  

「まさか、沖縄出版協会で顔を合わせることになろうとは考えてもいなかったですけどね」と苦笑いの英隆氏。大也氏も郷土教材の編集者としての道を順調に歩み始めたようだ。「それぞれの道があります。私も負けないように頑張らないとね」と気概を見せる英隆氏。今は企画出版だけではなく、自分史や校閲の仕事などにも積極的に取り組んでいるという。

同じ沖縄の出版業界で活動する英隆氏と大也氏、違う形の親子鷹として大きく羽ばたいていってほしいものだ

取材・執筆 宮城一春