出版人列伝
出版人列伝出版人列伝
#01

編集工房 東洋企画
大城佐和子さん

2001年6月には「株式会社東洋企画印刷」と法人化し、2007年9月には現在の糸満市へ本社および工場を移転した。「ある意味タイミングが良かったとしか言いようがありませんね。今もそうですが、常に決断を求められてきたような気がします。怒涛の毎日とでもいえますねぇ」。

また東洋企画といえば『モモト』『ポルト』といった定期刊行物の発刊でも評価が高い。これまで多くの定期刊行物が発刊されてきたが、この二つは10年以上も続いている。驚くべきことだ。「二つの発刊物は、競合はしていません。まず読者層が違いますから。『モモト』の編集長井上さんは、広島県出身なんです。その客観的な視野を活かして、外から見た沖縄、内から見た沖縄を更に紐解いて紹介するカルチャーマガジンを制作しています。それとは対照的に、沖縄の街と人を結ぶ、暮らしをテーマにしたライフスタイルマガジンが『ポルト』なんです。しかし、広告収入が得られない状況では、採算は取れていないのが現状ですかね、まぁ母体が印刷会社だから発刊が続けられているのだと思います。でも、それをマイナスと考えるのではなく、印刷技術や編集力をアピールする営業ツールとして活かしています」。まさしく印刷会社と出版社が融合しているからこそできる荒業なのだろう。

東洋企画の社訓は「難儀も一緒、喜びも一緒。だからこそ、一緒に難儀して一緒に遊ぼう」。「つらいだけでは仕事になりませんから、楽しくなければ続かないと考えています。お互いが協力しあえば、仕事も早く終わりますから。私たち夫婦は社員の家族も大事にしたいんです。だからこそ残業はなるべくしないようにして、家族で過ごす時間を大切に考えています。家族の理解がなければ長続きしませんから」。

子ども二人も独立した今、大城さんには大きな夢がある。「沖縄戦をはじめ、沖縄が困っているとき、真っ先に動いてくれたのはハワイのウチナーンチュだったんです。首里城火災の時もそうでした。そんなハワイのウチナーンチュの沖縄に対する思いをくみ取って、沖縄とハワイをつなぐ架け橋になりたいんです。これは採算度外視、ボランティア覚悟で、これまでにない本をつくって発信していきたいんです」。だからこそ、東洋企画の本には英語が併記されていることが多い。「ハワイに限らず、戦後、経済的に乏しかった沖縄を、遠く海外から支えてくれた全てのウチナーンチュに向けて、可能な限り共有できる本づくりを心掛けています」と語る大城さん。その根底には、夫の孝氏が恩師として崇める業界の重鎮、南西印刷の故西平守栄会長の教えが脈々と息づいている。丁寧で読みやすく、それでいて内容が充実した本づくりをしてこられたのだと感じた。

「一所懸命走り続けて、ここまで来ました。創業当初から比べると少しは成長してきたかなと、最近感じることがあります。しかしまだまだ楽観視は出来ないという怖さもあります」。

一方で、世界規模で進むデジタル化の波は、出版物にも変化が見られてきている。将来に向けた電子媒体を視野に、これからも紙媒体にこだわりを持ち、紙のすばらしさを自社の出版物で表現していきたいと語る大城さん。

「沖縄出版協会会長という重責を担う立場にもなってきました。これからは自社だけでなく、沖縄の出版界を盛り上げていけるよう、努力していきたいと考えています」としみじみとした口調で話を締めていただいた。