出版人列伝
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#02

沖縄時事出版
呉屋栄治さん/富濱朗さん

富濱朗さん(合資会社沖縄時事出版 企画部課長)
富濱朗さん(合資会社沖縄時事出版 企画部課長)

沖縄時事出版の巻2 企画部課長 富濱朗氏

~老舗教材出版社の次代を担う~

呉屋栄治編集部長の系譜を継ぐ時事出版の編集者と言えば、現在、編集企画部の課長を務める富濱朗氏(1967年9月生まれ、54歳)だ。

那覇市の与儀で育った氏は豊見城高校を卒業後、沖縄国際大学へ進学。大学では石原昌家ゼミで沖縄戦や社会学を学び、喜界島でのフィールドワークや沖縄戦の聞き取り調査などを行った。

「そのときの経験は、非常に印象に残っています。私が知ることのなかった戦争体験や戦後経験、また、沖縄県外の社会調査、沖縄にフィールドワークに来た大学生との交流など、多くのことに触れることができました。フィールドワーク事前調査や、実際に、フィールドワークでお会いする方々への聞き取り調査、他県の大学生が沖縄戦をどのように捉えているかなど、今の仕事に生かされている部分が多々あると思います。みんなは信じてくれないのですが、こう見えても人見知りなので、だいぶ鍛えられましたね」と笑う。その後、石原先生の紹介で沖縄戦関連書を手がけていた沖縄時事出版でのアルバイトを経て、1994年6月、正式に入社した。

しかし、編集者になろうとは全く考えていなかった氏は、出版社独特の雰囲気になじむのに時間がかかった。特に、時事出版の主力商品は県内小中学校の教材だからなおさらだった。「教材は使うもので作るものという感覚が全くなかったですから。でも、入社してからは、そんなことを言っている暇はなくて、とにかく突っ走ってきた感じですね。若い頃に担当した数学や算数の教材では、教科書と学習指導要領の読み込み、実際に使ってくださっている先生方の感想にこだわっていたのを覚えています。基礎・基本的な内容が求められている教材だし、使っている人がよろしくないといえば買ってもらえないですから(笑)」。氏の負けず嫌いが発揮されたというべきか。「そうこうしているうちに、いつの間にか入社して30年が経ってしまいました。まだやりたいことや課題としていることは山積しているんですけどね」。

現在は、既存の教材を担当する他、市町村の社会科副読本や一般書籍も担当している。「特に印象に残っているのは中城村教育委員会が発行した『ごさまる科副読本』ですね。企画からプレゼンテーション、資料収集や執筆、監修依頼や先生方との打ち合わせなど、仕事内容は多岐にわたりました。特に、社会科というか、歴史(特に琉球史)教材は、担当したことがなく、資料の読み込みで図書館通いをしたのを覚えています。中城城跡のボランティアガイド、壊れた城壁を修復する石工さん、管理・発掘をする中城村文化財課の学芸員、他の世界遺産グスクの学芸員など、いろいろな方にお会いして取材させてもらいました。今考えると、もっと聞き出せたんじゃないかという思いと、やっぱりあそこは改訂するともっとよくなるんじゃないかと思う箇所もあって…、反省点ばかりです」。

編集部長の呉屋氏は、そんな富濱氏のことを「ここ5年くらいで、責任感が出てきてしっかりしてきました。私が担当していた印刷会社との折衝や見積もり業務、編集部員の工程管理など、彼に任せるようになった業務は多くなりました。心強い後継者といえるでしょうね」と笑う。

富濱氏も「かつては呉屋さんの仕事なんて、すぐできるわと公言していましたが、それを言っていた自分が恥ずかしいです。今は勉強の時期ですね。ただ、最近では時代の変化が激しすぎて、教材の再認識をする時代になってきていると感じています。デジタルも含めて紙媒体だけにこだわらないことが必要になってくると思います」。

現在も主力商品の教材を担当しながら、副読本や一般書籍を編集している氏。年齢は50を越えたが、まだまだ伸び代のある編集者といってもいいだろう。

氏のリードで老舗出版社である沖縄時事出版が、どのように時代に寄り添いながら変化していくか注目したい。

取材・執筆 宮城一春