出版人列伝
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#03

琉球プロジェクト
仲村渠理さん

仲村渠氏に第二の転機が訪れる。「琉球プロジェクト」の設立である。2005(平成17)年のことだ。「そのときから完全に営業にシフトしました。取次にも興味があったので、営業をもたない出版社に声掛けをして、その本を書店に卸す業務も始めました」。その結果、現在では30社を超える版元の取次を行うようにもなった。

琉球プロジェクトとして、「編集の経験もあるし、営業の立場からみることもできる。誰にどのようなものを書いてもらうかを考えて、外部の編集者やデザイナーとチームを形成して自分の作りたい本を作っていくことにしました」。プロデューサーになったときに自分の理想とする本づくりが見えてきたと語る仲村渠氏。そのチームで刊行し印象に残っているのが2021年にチームとしての第3弾『沖縄の美ら星』。「前から星座の本を作りたいと考えていましたので、著者の宮地さんに出会えたのは幸運でした。宮地さんとは何度も意見を異にし、半年間作業が進まなかったこともありますよ。自分としても宮城さんも妥協したくなかったということもありました」と語る仲村渠氏。長い期間をかけて編まれた本書は反響を呼び、ベストセラーとなったことは記憶に新しい。さらに続けて「営業のマーケティングをしながら編集した本は必ず売れます。そのためにも、ゆっくり考えて余裕をもって本づくりをしていく姿勢が大切だと思います」。実際、仲村渠氏が企画した本は確実に売れている。「それは妥協していないからです」と自信を持って語る仲村渠氏。

嘱託社員のときから変わらないのが琉球新報社との関係。今でも琉球新報社の社屋に事務所を構える琉球プロジェクト。創業時は2名だった琉球プロジェクトは、現在社員4名となった。営業専門は一人で、私も社長業のかたわら営業も行っています。それにデータ作成や営業管理、経理担当の社員がいます。娘も社員として働いていますよ」。

事務局長を務める沖縄出版協会について聞いてみた。「沖縄県では、書店と版元の距離が県外の出版社が羨むほど近いです。大きく、沖縄本コーナーも作ってもらっていますので、お客さんに喜んでもらえる棚づくりを書店さんと協力して目指していきたいと思っています。何が出来るのか参加版元と一緒に考えていきたい。心配な点は、沖縄の出版界に若い人が少ないことです。ほかにも経済的に成り立たない版元も多く、厳しい状況にあります。もっと経済的な基盤を確立させることが必要だと思いますので、協会を通して整備していきたいですね。現在取り組んでいる県外の販路確立もその一環です」と語る。

本業である琉球プロジェクト社長としての顔だけでなく、沖縄出版協会事務局長の肩書も持つ仲村渠氏。筆者は長年、氏と交流があるが、最近、とみに人格的に厚みをましたように感じる。まさしく沖縄出版界をけん引する第一人者であるといっても過言ではないだろう。

取材・執筆 宮城一春