出版人列伝
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#07

榕樹書林
武石和実さん

榕樹書林の活躍は目覚ましく、2009年には『アジアの海の古琉球』が沖縄タイムス出版文化賞正賞、2013年に『琉球王国時代の初等教育―漢籍の琉球語資料』が伊波普猷賞を受賞するなど、発刊した書籍が次々と高い評価を受けた。また、2014年には、琉球新報社から榕樹書林へ「社会活動賞」(出版・文化部門)が授与され、2017年に『琉樂百控』(16年刊)がJASRAC音楽文化賞を受賞。2018年に『世界史からみた琉球処分』(2017年刊)が徳川賞特別賞を受賞している。

2016年4月、武石氏は、香港で開催された第20回東アジア出版人会議へ出席し、「琉球・沖縄の歴史と出版―指摘経験から」を沖縄出版人初となる発表を行う。この発表が東アジア各出版人の注目を集め、この年10月に韓国坡州(パジュ)で開催された「パジュ・ブックアワード」にて特別賞を受賞。選定理由として「琉球・沖縄の歴史・社会・文化に関する基本的な出版物の刊行を続けてきた」ことが評価された。武石氏は「この賞は、沖縄の出版界では多様で活発な出版が繰り広げられている。それを代表する意味合いもある」と語る。

同年11月に沖縄で開催された「東アジア出版人会議10周年記念会議」では、武石氏は実行委員の一人として会議開催に尽力するが、そこでも参加者の注目を集めた。会議開催中に武石氏から韓国富川(プチョン)市上洞(サンドン)図書館に対して、沖縄間連書1万冊余の贈呈式が行われたのだ(寄贈書は、上原兼善氏、池原正男氏、榕樹書林の蔵書である)。寄贈された書は、韓国上洞図書館に新設された「沖縄会館」に収蔵され、一般市民に公開されることになった。韓国富川市では、韓国、日本及び沖縄側関係者を招いての開館式が行われ、「プチョンと沖縄の文化交流と相互認識」と題された国際会議も開催されている。同開会式には沖縄県立図書館の職員も招待された。その縁から、2019年の県立図書館新館オープンに際しては、東アジア各地域の出版社から1000冊余の書籍が寄贈された。同書籍は、「東アジア出版人コーナー」として棚が常設されている。

また、2019年に沖縄大学で開催された「第27回東アジア出版人会議」では、沖縄側代表者の一人として東アジア各地域の出版人を迎え入れ、大会を成功裏に導いた。

70歳を迎える頃から、武石氏も「廃業」や「引退」を口にするようになる。しかし昨年も、『琉球沖縄仏教史』をはじめ5冊の新刊書を発刊。出版人としてのバイタリティーは、まだまだ衰えていない。さらに、2022年1月に発表された沖縄タイムス出版文化賞では、『琉球冊封使録集成(全11巻)』(原田禹雄訳注)が特別賞を受賞。

沖縄の出版界で大きな足跡を残す武石氏のモットーは「読み捨てではなく、きちんと読まれて記憶に残る本を出す」こと。これからも人々の記憶だけでなく、歴史に残る本を作り続けていくに違いない。

取材・執筆 宮城一春